みのおてならい音楽の森ツアーガイド☆鑑賞ノート7


2025年12月6日 土曜日 @箕面市立メイプルホール・小ホール

みのおてならい朗読倶楽部 第5回市民朗読会「声と言葉でつむぐ『いのちのきらめき』」

 

さる12月6日、みのおてならい主催の朗読倶楽部による市民朗読会が開催された。毎年、丁寧に開催されてきた朗読会も、回を重ねて、はや五回。今回のテーマは、声と言葉でつむぐ “いのちのきらめき” である。

 

常日頃、なかなか思いの至らない“いのち”。国際間の緊張が高まる昨今、いま一度、平和を希求する心から、“いのち”と向き合ってみよう。“いのち”という言葉を前にした時、我々は何を思うだろうか? これは、その答を古今の作家が紡いだ珠玉のショートショート作品から、見つけてみようという試みである。

 

選ばれた作品は、明治、大正、昭和から平成を経て、令和の作品も含まれ、実に多岐にわたる。有名なメジャー作品もあれば、筆者は寡聞にして存じ上げず、初めてお出会いした作家もいる。共通していることは、ひとつひとつの言葉を丁寧に扱い、とても大切にした作品が厳選されているということ。朗読会という性格上、市民朗読家それぞれの個性は、もちろん出てくるが、全てが美しい言葉のつづれ織りといった風情である。

 

私論であるが、音楽の物理的な本質が空気の粒子の振動であるならば、空気のある環境それ自体が、既に音楽であると思う。音色を決める最も大きな要因は、空気の粒子がどのように分布しているか? であり、それすなわち温度であり、湿度である。ミュージックテープハントで、音楽大国インドネシアを旅行した際、田園の中の露店で、粗大ごみとして捨てられていても、おそらく誰も見向きもしないであろうポンコツの簡易カセットデッキで、試聴させてもらったテープの音の良さに驚かされた。そのテープは、すぐさま買い求めて、日本に持ち帰ったが、あの簡易カセットデッキよりもはるかに高価で性能も上のはずの我が家のコンポーネントは、あの音を聞かせては、くれなかったのだ。おそらくは湿度の問題なのだろう… 音楽は、それが生まれた時間、場所で聞かなければ、本当の姿は見えてこないのである。

 

美しい言葉を発音すること。発せられた美しい波動が、小ホール内の空気の粒子を並べ替え、美しく整えていく。不埒なお話だが、こうした真摯な朗読を聞いていると、妙に睡魔に襲われる。それは発せられる美しい言葉が、最上級の音環境を構築し、そこにいると実に心地良いからなのだ。個々の朗読が終わると、後半は、指導いただいた川邊暁美さんと市民朗読家全員が参加した群読である。前半9本の朗読により、整えられた小ホールの空気の中で披露された

 

やなせたかし 作 『やさしいライオン』

谷川俊太郎 作 『生きる』 

 

もはや祈りと祝祭のための空間として完成した小ホールで行われた群読は、正に圧巻であった。

 

音楽は、見えないけれど、確実にそこに存在する。それは、実は神に最も近い性質なのだ。いにしえの昔より、音楽が神への捧げものであったのは、そういう理由である。そして、音楽に併せて言葉が発せられた。最初は会話に近いものであったが、それはやがてメロディやハーモニーを獲得して、さらに高みの音楽へと昇華されていった。教会や神社、寺院での祝詞(のりと)は、讃美歌となりお経となり、建物は巨大な共鳴装置となった。そこから外へ飛び出した音楽のルーツは、以降、その歴史を紡いでゆく。

 

市民朗読会が開催されるわずか一週間前に、参加者のお一人が、ご逝去された。朗読会の開催も危ぶまれたが、この朗読会こそが正に祈りの場であり、故人を偲ぶ場として、これほど相応しい場所はない。朗読家それぞれが万感の思いを込めて、パフォーマンスを行ったが、それは朗読家だけにとどまらず、その場に居合わせた聴衆をも巻き込んで、ホール全体が厳粛な場として成立していた。これもまた、ある種の奇跡である。


佐藤貴志 satoh  takashi 略歴

大阪府富田林市にて生まれる。大阪市立大学法学部卒。大学生時代、ドアーズのデビューアルバム『ハートに火をつけて(原題:The Doors)』、T.レックスの『メタル・グゥルー』、キングクリムゾンの『太陽と戦慄』を聞いて音楽に目覚め、その後、クラシック、ジャズ、民族音楽、エクスペリメンタル等々、様々な音楽との出会いを経て、多くのリスナーに知られざる音楽の普及に努めている。神戸の某企業にて10年間、カタログ販売による音楽事業を展開。

現在、音楽ブログ〈いわし亭〉主宰。いわし亭Momo之助を名乗り、肆音(しおん)『音楽ばかいちだい』を更新中。カルチャー倶楽部「みのおてならい」コンサート音響担当、同倶楽部の「音楽の森ツアーガイド」としてリポートを執筆。


2019年6月29日開催「アンドレス・セゴビアに捧ぐ クラシックギター 〜そらのあなたを聴くしらべ」

2020年9月12日開催「右手のピアニスト 樋上眞生  Replay」

2021年8月9日開催  みのおてならい・箕面市立文化芸能劇場開館記念催事「星を想う朗読会」

2022年7月2日開催  みのおてならい朗読倶楽部 市民朗読会「七夕の会」

2022年12月2日開催  「箕面の森 アンティークオルゴール演奏会 妖精たちのピックヨウル」

2024年4月5日開催 能楽小鼓「櫻座」公演 春うらら にほんの美しい音色・謡